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ダニエル・シェア『Distribution』をめぐる対話

Image from the series "Distribution" ©︎Daniel Shea この対談は、アメリカ人アーティスト、ダニエル・シェアの最新刊『Distribution』の出版関連イベントとして開催された。聞き手を務めたのは、IACKを主宰し、自身もアーティストとして活動する河野幸人。同書を手がかりに、森、都市、写真集、グリッド、記憶、フィクション、そして現代写真の可能性をめぐる対話が行われた。 森を撮ることから始まった作品 河野幸人(以下YK):本日は、去年8月に出版されたダニエル・シェアさんの最新刊『Distribution』を中心にお話を伺いたいと思います。ダニエルさんはこれまでも、都市や環境をテーマに重要な作品を発表してきました。本作はこれまで同様に都市や自然も登場しますが、「森」が出発点となり制作が始まったと聞いています。 ダニエル・シェア(以下DS):本作はとてもシンプルな発想から始まりました。それは、森を撮影することです。 私はそれまで何年ものあいだ、建築を主題に作品を制作してきました。建築がこの世界において何を意味しているのか、そしてそれが私たちの世界に対する価値観をどのように映し返しているのかを探究してきたのです。 しかし正直なところ、都市の写真に取り組むことに少しうんざりしていて、環境を変える必要性を感じていました。そこで森を撮影しようと試みたのですが、すぐに一つの問題に直面しました。というのも、森の中にいる「経験」そのものを表現することが、とても難しかったのです。 それがこの本の出発点になりました。森の中にいる経験は、自分が環境全体に包み込まれているような感覚としてあります。身を置いている環境そのものが経験を形づくる一方で、多くの場合、写真には物事を断片化する傾向があります。その二つをどのように折り合わせるのか。それが最初の課題でした。 Spread from the book "Distribution" ©︎Daniel Shea YK:作品を作り始めた時期は、ちょうど新型コロナウイルスのパンデミックとも重なるのでしょうか。 DS:それは正直なところ偶然でした。私は新型コロナウイルスの流行が始まる少し前に森を撮り始めていたので、不思議なタイミングでした。 パンデミックによって見えてきたことの一つは、環境問題について多く語られるようになったことです。ただし私の関心は、自然界に一時的な停止の瞬間が生まれたこと自体にあったわけではありません。 世界中のニュースでも報じられていたと思いますが、生態系が回復していくように見えたり、都市の中で動物が目撃されたりすることがありました。それによって、環境問題に改めて焦点が当てられたのだと思います。 そのことが、森の写真にもう一つのレイヤーを加えました。最初は非常にシンプルな問題でした。写真が何かを作り出そうとしている、あるいは、写真が何かを望んでいる、ということではありません。写真はただ、写真であるにすぎません。ただ、その断片的な性質こそが、私が最初に関心を持った問題でした。 しかし、そこにパンデミックが起こり、環境問題への関心が改めて高まったことで、私自身もそのことについて多く考えるようになりました。そしてそれが、断片と全体という、もう一つの問題へと重なっていったのです。 気候変動がゆっくりと進行し、私たちが日々の変化を知覚できないために行動することが難しくなるのだとすれば、その構造は、写真における「見ること」の問題とも重なっています。 YK:この作品を着想した時点で、すでに写真集にすることは考えていたのですか。 DS:制作を始めるとき、私はいつもそれを写真集にするのか、あるいはそうではないのかを考えています。というより、常に次の本のことが頭の中にあるのだと思います。私にとって本は、自分の実践の中心的な部分です。展示よりも本に最も執着していて、何より関心を持っています。 一方で、私はある種の二重生活も送っています。写真家として仕事もしていますし、その仕事は本のための作品とは見た目もかなり異なることが多いです。 ただ、私にとって本は二つの意味を持っています。一つは、長期的に制作していくうえでの秩序を与えてくれること。もう一つは、単純に本というメディアそのものへの関心です。ほとんど執着と言ってもよいかもしれません。 ジェシカ──具体化された抽象 YK:この本は現代における写真の、そして写真集の意義を視覚的に表現した素晴らしい写真集だと思います。読んでまず最初に、一枚一枚の写真の力強さに加えて、写真集の文法や、アカデミックな写真の慣習を非常に丁寧に踏まえていると感じました。しかし同時に、その枠に収まらない何か──ルールに則りながらも、そこから逸脱する要素を意図的に入れることで何かを試みている、結論を出すことを目的としていない本だということがわかってきました。 DS:本作は、ジェシカという女性が一日を過ごしていく様子を捉えた、一連の写真から始まります。 このパートは私にとって二つの意味合いがあります。一つは少し抽象的なもので、あなたが説明してくれた私の関心、つまり本づくりの構造とルール、そしてルールを破ることとの関係に関わっています。 外見上はとても厳格な本を、回り道から始めるというアイディアが気に入っていました。最初の写真の連なりを見た読者が、あるものを期待したあとで、形式的にも構造的にも大きく転換していくようにしたかったのです。 私にとってこの回り道であるジェシカは、抽象的な統計データが、肉体的な身体を持った人物として立ち上がる、「具体化された抽象」とでも呼ぶべき存在です。彼女は、人口統計上の中央値としてのアメリカ人を表象しています。私は、その人物がどのような人であるかを想定し、その人を撮影しました。 写真の中に写っている人物は、架空の人物です。しかしその表象、つまり中央値としてのアメリカ人女性は、統計的事実に基づいています。この具体化された抽象という考えは、再び森における部分と全体の問題へと戻っていきます。そしてそれは、写真が応答するのに適した、写真にとって中心的な問いを含んでいると思います。 YK:AIを使用すれば、誰でも容易に画像や動画を生成できる時代です。統計データを使って、リアルな架空の人物を作り上げることもできる。しかし、それをあえて写真で行う。ここに出てくる女性は、実は俳優が演じているわけですが、数字上にのみ存在する人物を演じる女性を、写真として記録している。そのねじれは、単にフィクションを作ることとは少し違う気がします。写真は断片的でありながら、同時に「その人がそこにいた」という事実性にも結びつくからです。 DS:おそらく今なら、似たようなことは別の方法でもできるかもしれません。データを入力すれば、簡単に画像や映像すら生成できるでしょう。しかし写真の場合には俳優を雇い、それを写真として記録することになる。おそらく、そこに重要な理由があるのだと思います。 私の中心的な関心は、ストレート・フォトグラフィーの中に新しい形式を見つけることだといえます。それは写真の前提や、写真が持つ仕掛けのようなものを少し操作することを意味します。 この撮影そのものがフィクションである、ということではありません。私がある人物を表象するために雇った人を撮影している、そのことを記録しているのです。写真の中で提示されていること自体に嘘はありません。そこに嘘はないのです。 これは微妙なことですが、その微妙さの中に、写真や表象について私が関心を持っていることのすべてがあります。単純に「写真は嘘をつく」、という話ではありません。むしろ、真実とは文脈によって揺れ動くものだということです。揺れ動くのは写真に写っているものではなく、その意味の方です。 もう少しシンプルにいうなら、この写真たちの言語はドキュメンタリーです。しかし、意図としてはドキュメンタリーではありません。一方で、本の後半に出てくる、人が写っている写真の多くは、本質的にはドキュメンタリー写真です。私はその場を演出していません。それぞれの環境にいる人々を撮影した写真です。 写真の物質性とフレーム Image from the series...


Sleeping by the Mississippi by Alec Soth

¥8,250

アメリカ人写真家、アレック・ソス(Alec Soth)による作品集。 ソスのファーストブックにあたる本作は、2004年にドイツの出版社Steidlから出版され、瞬く間にソスの写真家としての評価を確かなものにした。歴史的名作として扱われているにもかかわらず、手に取ることが困難な状況が続いていたが、出版から13年が経った2017年、イギリスの出版社MACKの手により、新たに2点の未収録作品を加えた復刻版が制作された。 アメリカ・ミシシッピ川沿いのロードトリップを中心として、アメリカのアイコン的役割を果たすが故に寧ろ忘れられがちな「サード・コースト(第3の海岸)」。本作はその地で生きる人々や風景、建物を丁寧に描き出しており、写真からは孤独や切望、幻想といった人間のもつ物悲しささえも感じられる。 初回生産版ポスターが付属。 - Title: Sleeping by the MississippiArtist: Alec SothMACK, 2017Hardcover, 280 x 275 mm120 pagesReprint, first printing¥7,500 + tax


Deep Springs by Sam Contis

¥7,425

アメリカ人写真家、サム・コンティス(Sam Contis)による作品集。本書はカリフォルニアに位置するとある大学を舞台に、場所そのものや大学にまつわる物語、男性的なアイデンティティを探求する。大学は少人数制の男子校であり、学術的な授業以外に畜産、農業といった分野など自然や地域に接し総括的に実践していく「ホリスティック教育」を方針とし、作者はそこで学ぶ者たちを追っている。コンティスが撮影した写真に加え、約一世紀前に在籍していた第1期生の写真を用いている。(ディストリビューター解説より一部抜粋)-Title: Deep SpringsArtist: Sam ContisMACK, 2017Hardcover, 240 x 288 mm152 pages¥6,750 + tax


FROWST by Joanna Piotrowska

¥7,700

ポーランド人アーティスト、ジョアンナ・ピオトロフスカによる作品集。ジョアンナ・ピオトロフスカの奇妙な家族アルバムは、演出された家族写真であり、家族という概念の根底にある不安、つまり抑圧的であると同時に報われもする強固な絆を主張している。彼女の写真には、親密な家族の光景が映し出されている。機能不全に陥る寸前のようなイメージの中で、瀟洒にペアを組んだ身体が出会い、収束していく。あるスナップショットでは、2人の成人した兄弟が白いブリーフ一枚でペルシャ絨毯の上に横たわり、別のスナップショットでは、抱き合っている2人の女性の黒い服を着た身体が融合し、母と娘の忌まわしい重なりを暗示している。暖かさや息苦しさを意味するタイトル自体が、家族の逆説的な性質を捉えている。しかめっ面の空間は、居心地の良さと閉所恐怖症、親密さと無風状態の両方を兼ね備えている。ピオトロフスカは、家族の被写体にほとんど彫刻のような身振りでポーズをとらせ、親密さの瞬間を再現させる。ドイツの心理療法家バート・ヘリンガー(Bert Hellinger)の哲学に影響を受けたピオトロフスカは、ヘリンガーの治療法「ファミリー・コンステレーションズ」の動きやジェスチャーを統合した。彼女のモノクロのイメージは、意図的に失われた幸せの瞬間をノスタルジックに映し出し、あらゆる家族関係に蔓延する自己の緊張を鋭く観察している。「父親との関係におけるあらゆる活動が、「私」を成長させ、同時に「私」を破壊する。私はどこにでも父親を見つける。父親のいない風景はない」─フランツ・カフカ(父への手紙より)2014年度「MACK First Book Award」受賞作品。絶版。-Title: FROWSTArtist: Joanna PiotrowskaMACK, 2014Hardcover, perfect binding265 x 235 mm48 pagesText in EnglishFirst editionISBN: 978-1-910164-10-5¥7,700 -Condition: Good/経年並


In Veneto, 1984-89 by Guido Guidi

¥7,040

イタリア人写真家、グイド・グイディ(Guido Guidi)による作品集。 ヴェネツィアの都市、メストレの店先のブラインドの隙間から覗く大きな瞳のイメージから始まる本書は、1984年から1989年の間にディアドルフ 8x10で撮影した未発表の写真作品を収録。作者が1つのプロジェクトを通じて大判カメラを使ったのはこの時が初めてである。本作の主題であるヴェネト州中心部のとある地域は、ある時期から急速に変化したことで知られている。無秩序な都市の拡大は、イタリアの広々とした田園地帯に深い爪痕を残した。 過去の作品を現代の手法を用いて制作することの面白さが感じられる一冊。 - Title: In Veneto, 1984-89Artist: Guido GuidiMACK, 2019Hardcover, case binding240 x 300 mm64 pagesFirst edition¥6,400 + tax


Somersault by Raymond Meeks

¥6,600

アメリカ人写真家、レイモンド・ミークス(Raymond Meeks)による作品集。本書は、成人を迎え間もなく大学進学のために家を離れるミークスの娘をテーマに制作された。雑木林や電話線、線路などのミークス家を取り囲む自然や環境風景と娘のポートレイトがモノクロームとカラーの穏やかなタッチで描き出されており、前作同様巧みなシークエンスでフォト・ストーリーが描き出される。袋状のページや柔らかな質感のカバーなど、最小限ながらも作品の繊細さを表現した秀逸なブックデザインが光る。マーク・シュタインメッツ(Mark Steinmetz)やロバート・アダムス(Robert Adams)のファンにもおすすめの一冊です。-Title: SomersaultArtist: Raymond MeeksMACK, 2021Hardcover, perfect binding, French fold245 x 174 x 12 mm72 pagesText in EnglishFirst edition¥6,000 + tax


Easter and Oak Trees by Bertien van Manen

¥12,100

オランダ人写真家、ベルティアン・ファン・マネンによる写真集。若き母としてだけでなく、アーティストとして自分の可能性も試したいと思っていたファン・マネンが成功するには、強い意志と粘り強い勇気が必要だった。そのような時期に、彼女は自分の家族や肉親を撮影していた。数十年が経過したあとで、このシリーズの主な被写体のひとりである彼女の息子が、ファン・マネンにそれらの写真の存在を思い出させてくれた。これらのモノクロ写真は明るさが特徴的で、70年代の彼女の子どもたちと家族の喜び、暖かさ、安心感が表現されている。『Easter and Oak Trees』は、この家族的な牧歌のほんの一部を共有しようという魅力的な招待状を読者に提供するだろう。-Title: Easter and Oak TreesArtist: Bertien van ManenMACK, 2013Hardcover with dust jacket205 x 172 mm112 pagesText in EnglishFirst editionISBN: 9781910164396¥12,100-


In Plain Air by Irina Rozovsky

¥6,820

ロシア人写真家、イリーナ・ロゾフスキーによる作品集。本作の出版から遡ること10年前、ロゾフスキーはブルックリンのプロスペクトパークの南側に位置する湖を小型モーターボートで周遊していた。そしてそこで家族や恋人、友人、そしてさまざまな文化や民族が、同じ土地と瞬間を共有している光景を目にした。公園という平等な空間に、目に見える現実として広がるアメリカの縮図のような光景 - それはたちまち彼女を魅了し、本作の制作へと駆り立てた。2011年から5年をかけて撮影された本作では、都会の喧噪から逃れるために季節を問わずプロスペクトパークを訪れる人々と四季折々の公園の姿が、高い濃度と透明感を併せ持つ美しいカラー写真によって写し出されている。-Title: In Plain AirArtist: Irina RozovskyMACK, 2021Hardcover240 x 285 mm96 pagesFirst edition¥6,200 + tax


Oobanken by Jerome Ming

¥6,105

南アフリカ在住の写真家、ジェローム・ミン(Jerome Ming)による作品集。 ミンはロンドンに生まれ、東アフリカのザンビアとマラウイで育ち、そして再びイギリスに戻りノッティンガム・トレント大学でファインアートを専攻。現在は南アフリカを拠点に活動している。本作はミャンマーのヤーゴンで滞在中に制作された作品であり、タイトルの『Oobanken』は東南アジアや南アジアに生息するカッコウ科の野鳥、大蕃鵑から取られている。現地での日々の営みの光景や事物がミンの視点とレンズを介することで、どこか夢の世界のような非現実的なイメージへと変容している。そのシュールさはかつてのモダニズム写真を思わせるが、作品の見せ方としてナラティブ(流れ)に自覚的であるという点は極めて現代的であり、何よりモノクロームの世界に溢れる光とグレーのトーンの美しさが印象的な一冊である。 - Title: OobankenArtist: Jerome MingMACK, 2019Hardcover, 165 x 210 mm68 pages¥5,550 + tax


Omaha Sketchbook by Gregory Halpern

¥8,470

国際的写真家集団「マグナム・フォト」候補生であり、2014年にグッゲンハイム奨励金を受けた経歴をもつアメリカ人写真家、グレゴリー・ハルパーン(Gregory Halpern)による作品集。 15年間に渡り、作者はネブラスカ州オマハで写真を撮り、アメリカの心臓部(ハートランド)に対して感じたことを、幾つもの解釈が可能であり重層的な意味が込められた叙情的なイメージとして表現してきた。2009年に画用紙のスケッチブックで作られた作品集を再現した本書では、各ページにコンタクトプリントがラフなコラージュでレイアウトされている。この土地を嫌悪しながらも惹かれてならないという、アンビバレントな感情が透けて見えるイメージからは、作者が不協和や思いがけない調和を楽しんでいることが伝わってくる。本作は、アメリカとそこに暮らす男性や少年、そしてその攻撃性、不完全さ、パワーの構造について省察した一冊である。 (ディストリビューター解説文より抜粋) - Title: Omaha Sketchbook Artist: Gregory HalpernMACK, 2019Softcover, 290 x 230 mm144 pages¥7,700 + tax