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Favorite Books of 2025

もうあと数時間もすると、2025年も終わります。

皆さんにとってはどのような一年でしたか?

店主は個人としてもIACKとしても、「外に出向く」ことを目標に動いていたため、IACK店頭での展示企画本数は例年より若干少なくなりました。しかしその分、より多くの方に直接本を届けられたのではないかと思います。

作品集に関しては、取り扱いの有無に関わらず、今年も多くの写真集を手に取りました。ブックフェアにも例年以上に出向いたので、累計で何冊に目を通し、手に取ったのかはまったく分かりません。

では今年も簡単にではありますが、IACKに入荷した本の中で特に印象に残った写真集を振り返りながらご紹介します。


Distribution
Daniel Shea
Published by MACK

ダニエル・シェアと MACK。2010年代の写真シーンを代表する写真家と出版社による本書は、時代の節目を感じさせる見事な一冊でした。

本作は、「森を撮るとはどういうことか」という問いを起点に制作された作品であり、断片的な写真、あるいは全体を写したとしても、物事の一部しか語り得ないという写真メディアの性質を受け入れた上で、現代アメリカの都市像に迫ります。

統計的に「最もアメリカ的」とされる女性のポートレートで幕を開け、断片的な都市のイメージ、静物、グリッド状のレイアウト、コラージュなど、写真集表現におけるあらゆる技法が駆使されています。写真の強度だけを見れば、もっと薄い造本でも成立するでしょう。しかし、執拗な反復やシークエンスによって、鑑賞に時間をかけること自体が重要になっており、そのためにこの仕様に落ち着いたのだと感じます。

現代における写真、イメージ、印刷物、生成画像、そしてリアリティーとは何か。最後に収録された小説も本作に一層の深みを与えています。年内にレビューを書く予定でしたが間に合わず……1月には改めて記事をまとめるつもりです。まだお持ちでない方には、今年、そして一時代の総括として、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

通販ページはこちら
https://www.iack.online/products/distribution-by-daniel-shea?_pos=50&_sid=69e3c36a3&_ss=r


Vertical Shift
Marte Aas
Published by Multipress

今月、店頭ではノルウェー人写真家リーナ・バーマ・ロッケンと、写真家/映像作家のマルタ・オースによる展覧会を開催しました。ふたりは作家活動と並行して Multipress というアーティストラン出版社を運営しており、本作も自らのレーベルから出版されています。実は Multipress は、IACK を立ち上げた8年前に最初にコンタクトした出版社でもあります。そのきっかけは、当時店主が参加していたアーティストブックのグループ展で、同じく展示されていたオースさんのアーティストブックでした。

振り返ってみると、これまでオースさんの作品は、映像作品のキャプチャであったり、映像とセットであったりと、写真が全面的に主役になることは少なかった印象があります。本作は明確に「写真作品」として制作されており、彼女の高い写真技術と個性が際立っています。アーカイブ写真を素材として扱うバティア・スーターの作品を想起させるように、場所性や時代性を示す要素を排除した写真は、アーカイブのようでありながら強い作家性を感じさせます。

写真の上下左右をあえてばらばらの向きで収録するレイアウトは、一枚の写真に対する固定的な読解を拒んでおり、視覚的な驚きとともに、写真を読む面白さの原点にも立ち返らされます。ブルーのゴムバンドで綴じた装丁も良い佇まいです。

通販ページはこちら
https://www.iack.online/products/vertical-shift-by-marte-aas?_pos=34&_sid=69e3c36a3&_ss=r

 

O
Daniel Reuter and Umihara Chikara
Published by Roma Publications / Arts Council Luxembourg

今年開催された大阪・関西万博。ルクセンブルク館では、プログラムの一環として、ルクセンブルク出身の写真家ダニエル・ロイターと、日本人写真家・海原力による展覧会が行われました。本書は、その展覧会に合わせて、オランダの Roma Publications から刊行された写真集です。

一枚一枚の写真に派手さはありませんが、それこそがふたりが見た均質的な湾岸地域の風景であり、その均質さを表現するために、撮影における取捨選択が徹底されています。何より本書を特徴づけているのが、同じ写真をモノクロとカラーで反復させるブックデザインでしょう。本という形式だからこそ成立する写真表現であり、さすが Roma Publications と言わずにはいられない手腕です。ランドスケープ写真集の可能性を切り拓く、見事な一冊だと思いました。

ブックレビュー
身体感覚、イメージ、距離──ロイターと海原が捉えた湾岸風景
https://www.iack.online/pages/book-review-o

通販ページはこちら
https://www.iack.online/products/o-by-daniel-reuter-and-umihara-chikara?_pos=13&_sid=69e3c36a3&_ss=r


DÉMANTÈLEMENTS
Noémie Goudal
Published by RVB Books

フランス人ヴィジュアル・アーティスト、ノエミ・グーダルは、非常にスケールの大きなインスタレーション作品を制作する作家ですが、本書はこれまでの作品の中でも小さな判型の写真集です。しかし、そのスケール感は相変わらずで、またボリュームも充実した、ずっしりとした新作となりました。

収録された写真は一見するとフォトショップや AI による加工のように見えますが、実際には、水溶紙(水に触れると溶ける紙)にプリントした写真を透明なシートに貼り付け、山の稜線に沿って切り込みを入れ、幅約2メートルの複製を制作。それを別の山──別の風景の前に配置し、再撮影しています。仕組みが分かると非常に面白く、AI がかつてなく存在感を持つ現代だからこそ、風景写真やデジタル技術に関心のある方にも手に取ってほしい一冊です。

通販ページはこちら
https://www.iack.online/products/demantelements-by-noemie-goudal?_pos=39&_sid=69e3c36a3&_ss=r



Ripples in the Pond
Bharat Sikka
Published by Fw: Books

本作は、インド・西ベンガル州コルカタ郊外の町マカルダを題材にした写真集です。インド人写真家バハラ・シッカによる写真は、一見するとクラシカルな印象を受けますが、イメージをずらしながらプリントをスキャンしたような、不思議な質感を持っています。その不気味さとミステリアスな世界観に強く惹き込まれました。

今年、視覚芸術としての、そして視覚表現としての写真の面白さを、最も強く再確認させられた一冊です。

通販ページはこちら
https://www.iack.online/products/ripples-in-the-pond-by-bharat-sikka?_pos=43&_sid=69e3c36a3&_ss=r



MAINE
Gerry Johansson
Published by The Ice Plant

今年参加した TOKIO ART BOOK FAIR で知り合った、ロサンゼルスの出版社「The Ice Plant」から刊行された、ギャリー・ヨハンソンの写真集。

ヨハンソンは、スクエアフォーマットの写真と布張りのカバーを代名詞とし、出版社が変わっても同一フォーマットで出版し続ける姿勢は、頑固さを通り越して、作家としての絶対的なこだわりを感じさせます。すべての作品を手に取ったわけではないため詳細は分かりませんが、本書のように撮影地をアルファベット順に収録する構成もあり、撮影者の意思を極力排除する姿勢には、ドイツ写真の影響を強く感じます。

本書はアメリカで撮影された写真で構成されており、英語圏ということもあって地名の意味がすんなり理解できる点が魅力です。ユニークな土地の名前や場所から想像を広げるランドスケープの面白さ、そしてヨハンソンの実践の意義を、改めて実感させられました。代名詞とも言えるこの装丁もやはり良いですね。

通販ページはこちら
https://www.iack.online/products/maine-by-gerry-johansson?_pos=29&_sid=69e3c36a3&_ss=r

 


MAN
Erik Kessels and Karel De Mulder
Published by RVB Books

ローラ・ウェッブ・ニコルズ江崎愛の写真集レビューでも触れましたが、近年、安易なファウンドフォト作品に対して疑念を抱くことがあります。面白いから、歴史的だからといって、素材として写真を使用してよいのだろうか、という懸念です。そんな最中、ファウンドフォトを代表するオランダ人アーティストのエリック・ケッセルスと、クリエイティブ・ディレクターのカレル・デ・マルダーによる本書が入荷しました。

ページを開いてまず驚かされるのは、通常はタブーとされる「ノド」に写真が消えてしまう構造を逆手に取った大胆な表現です。男性性をテーマにした作品でありながら、真面目な鑑賞態度を嘲笑うようなその策略に、思わず笑ってしまいます。数多くのアーティストブックを手がけてきたからこその、シンプルかつ的確な解決策はお見事。今年は例年にもまして小さくて分厚い本を多く手に取ってような気がします。

通販ページはこちら
https://www.iack.online/products/man-by-erik-kessels-and-karel-de-mulder?_pos=20&_sid=69e3c36a3&_ss=r

 


Lora Webb Nichols: Heap-O-Livin’
Published by Fw: Books

今年一番のサプライズはこの本でした。詳しくはこの本に関するレビュー記事を読んでいただきたいのですが、一昔前の写真を、歴史的価値や資料性、ドラマ性といった軸で扱うのではなく、ひとりの人物による写真集としてまとめ上げた見事な一冊です。

編集の妙はもちろん、写真そのものも素晴らしく、現代のスナップショットのような軽やかさとシュールさ、そして絵画的表現に依らない、純度の高い写真的ポートレートの数々が印象的です。前作同様、絶版になると入手困難になるため、気になる方はお早めに。

ブックレビュー
歴史資料を超えた写真集へ『Heap-O-Livin': Selections from the Lora Webb Nichols Archive 1899–1962』
https://www.iack.online/pages/book-review-heap-o-livin-selections-from-the-lora-webb-nichols-archive-1899-1962

通販ページはこちら
https://www.iack.online/products/lora-webb-nichols-heap-o-livin?_pos=42&_sid=69e3c36a3&_ss=r

 


今年を振り返って

SNS の普及により情報へのアクセスが容易になり、例年通り写真集/作品集全体の水準は確実に上がっています。その結果、良質な作品の数が増える一方で、本当に優れたものが物量に埋もれてしまう場面も増えているように感じます(決して良いものが減っているわけではなさそうです)。

音楽の分野では、写真集以上に作り手と作品数が増えていますが、多くはストリーミングで気軽にアクセスできます。一方、写真集は実物を手に取らなければ鑑賞できません。そのため、以前にもまして、物量を効率的に情報処理するために社会性や政治性など、明確な評価軸が年々求められているように感じます。

しかし当然、そのような軸はあくまで軸でしかなく、「正解」ではありません。IACK は個人によるスモールビジネスであり、扱える冊数や仕入れ数には限界がありますが、小回りが効く分、評価軸もいくつも設けることができます。自由に越境しながら作品と向き合えるからこそ、他では見過ごされがちなものに引っかかり、評価しているのだと思います。

このバランス感覚を保ちながら、今後も独自の視点で作品を紹介していきたいと考えています。その過程が、皆さんと価値観を共有するひとつのきっかけになれば幸いです。

それでは、来年もどうぞよろしくお願いします。