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OpacitiesLine Bøhmer Løkken & Marte Aas2025年12月6日(土)- 12月28日(日) この度 IACK は、ノルウェー人写真家リーナ・バーマ・ロッケンと、同じくノルウェー人アーティストのマルタ・オースによる展覧会を開催します。 ロッケンとオースは学生時代を共に過ごし、現在はそれぞれが作家としてノルウェーを拠点に国内外で精力的に活動しています。2002年にオースがアンナ=グレタ・トーレスンとともに立ち上げ、2013年にロッケンが加わった独立系出版社 Multipress は、現代のアートブック/写真集出版シーンにおける先駆的存在であり、設立から20年以上を経た現在も「本」というフォーマットでの表現可能性を探求し続けています。 ふたりによる日本初の展覧会となる本展では、2024年に写真集を発表し高い評価を得たロッケンの『Dry Eye Dripping Stone』と、オースの新作『Vertical Shift』が共有するテーマ「霞/不透明さ(Opacities)」に焦点を当てます。ロッケンの作品は「視覚の光学的・触覚的なあり方」を中心に据え、視覚障害の領域にも接続しながら、見ることそのものの身体性を問いかけます。一方、オースの作品は写真を固定された視点から解放しようとする実践です。本展は、この2作を同一空間上に構成するインスタレーションとして展示されます。 会場では作品展示に加え、オースの新刊『Vertical Shift』、そして両者がこれまでに刊行してきた主要作品集も販売いたします。初日は作家も在廊いたしますので、この機会にどうぞご来場ください。 プレスリリース - OpacitiesLine Bøhmer Løkken & Marte Aas会期:2025年12月6日(土)- 12月28日(日)*営業日詳細はこちらのページよりご確認ください。営業時間:平日 10:00-12:00/13:00-16:00、土日祝 11:00-14:00/15:00-18:00会場:IACK入場無料 リーナ・バーマ・ロッケン(Line Bøhmer Løkken)1970年生まれ、写真家。オスロを拠点に活動するロッケンは、建築物、人、物を通して、私たちがどのように異なる場所と関わり、経験するかをテーマとした写真作品を中心に制作を行う。近年では触覚的な視覚の側面を探求し、視線を通して触覚的な読みを得ることを目指すことで、より現象学的な写真へのアプローチに重点を置いている。これまでに「Kunstnerforbundet」、「Galleri BO」、「Opplandia kunstnersenter」、「Kunsthall Oslo」、「Gallery F15」、「Fotogalleriet」、「Henie-Onstad Kunstsenter」、「Galerie für zeitgenössische Kunst」で展覧会を開催。アーティストブックも多数出版しており、また、アーティストが運営する出版社「Multipress」の共同運営者として、プロジェクト「Angle 1-90°」のキュレーションやマネジメントを行っている。 www.linebohmerlokken.com マルタ・オース(Marte Aas)1966年生まれ、写真家・映像作家。オースは、現代のイメージ文化、歴史、技術、そして景観の政治が交差する地点に関心を寄せ、作品では政治的・イデオロギー的物語を支える構造やジェスチャーに焦点を当てる。映画、写真、インスタレーションといった多様な形式を用いて、非線形で層をなす物語として可視化する点に特徴がある。作品の出発点となる素材は、現代または歴史的資料に存在する物語であることが多く、写真実践を基盤にしながらも、メディア研究を通して再構成・加工される。そのため、写真の物質性、記号と表象の関係、写真の表象的価値といったテーマも、彼女の実践において重要な探究対象となっている。ヨーテボリ大学写真学部で学び、ノルウェー国内外で展覧会や上映を多数開催。直近の個展に、2023年オスロ「Atelier Nord」での『It Cannot be Contained』がある。著作に『Marte Aas...
視点を解きほぐす写真集──マルタ・オース『Vertical Sift』
Marte Aas, Vertical ShiftMultipress, 2025 昨年12月、ノルウェー人写真家のリーナ・バーマ・ロッケンと、映像作家/写真家のマルタ・オースによる展覧会を企画した。 リーナさんとマルタさんは作家活動と並行して、Multipressという独立系出版社を運営している。IACKを立ち上げて最初にコンタクトを取った出版社のひとつが、彼らだった。もう8年以上前になるが、当時ぼくの作品集もキュレーションされていたアーティストブックの展覧会に、マルタさんの作品が展示されていた。それまで関係性のある人たちからしか仕入れを行っていなかったにもかかわらず、そのユニークな造本に惹かれて直接連絡を取った。 地理的な理由から、取引をしている出版社と実際に顔を合わせることは稀である。けれど不思議なことに、メールだけのやり取りでも人間性は伝わるものである。長年にわたり継続的にやり取りをしている出版社は、自ずと作品だけでなく、人としてフィーリングの合う相手であることが多い。そして3年前、ぼくの写真集の出版にあわせて、パリのブックフェアでサイン会を行った際に、ついに彼らと対面することができた。二回りほど異なる世代差などまったく気にならないほど、とても温かい人たちだった。 Installation shot from the exhibiton "Opacities" at IACK, December 2025 前置きが長くなったが、このような経緯に加え、近年彼らが東京アートブックフェアに参加するようになったこともあり、「今度はぜひ金沢で企画をやりましょう」という話が自然と上がった。出版社を取り上げる企画自体は7年前にすでに行っていたため、今回は二人の展示を行うことになった。リーナさんは、昨年1BOOKsでも取り上げた作品『Dry Eye Dripping Stone』を、マルタさんは11月に出版予定の新作を、それぞれ展示することに決まった。 今回紹介するのは、展覧会のインスタレーションも印象的だったマルタさんの新刊、『Vertical Sift』である。 人工物と自然の双方を含む、さまざまな風景を写した一連の写真から構成されたこの作品は、「曖昧な視点」と「方向性」というテーマを掲げている。意図的に時代性や場所性を撮影時に排除することで、写真はアーカイブ写真のような、意味が文脈から切り離された宙吊りのイメージとして提示される。 Spread from "Vertical Shift" 文字通り、写真は上下左右さまざまな向きに回転させてレイアウトされており、見る者はカメラがピント合わせをするように、自身の目のピントを目まぐるしく合わせながら、写真と向き合うことになる。この作品が試みているのは、世界を見るための、より流動的な視点の提案だ。作家の言葉を借りて言い換えるなら、「世界における別の在り方の可能性」──つまり、多面的で予期せぬ物語である。 本作を眺めていると、凝り固まった視点がほぐされていき、どこか肩の力が抜けるような感覚を覚える。写真とはこうでなくてはいけない。物事はこうでなくてはいけない。何かを続けていると、知らず知らずのうちにそうした考えに支配されていく。それは思想やスタイルとも捉えることができるだろう。 だがぼくたちはある地点で立ち止まり、物事を見返し、自身の立ち位置を確認することも必要だ。そういう意味で、一年の始まりにもふさわしい一冊ではないだろうか。本作は視覚的な体験を通して、読者が世界を捉える視線そのものを、もう一度ゆっくりと組み替えていくのである。 Essay by Yukihito Kono (5 March, 2026)Originally written for 1BOOKs at CANDLE CAFE & Laboratory ∆II, January...
BOOK REVIEW視点を解きほぐす写真集──マルタ・オース『Vertical Sift』Read BOOK REVIEW包摂から併存へ──ロー・エスリッジ『Le Luxe』Read BOOK REVIEW旅と写真が出会う場所──「As Seen」シリーズの魅力Read BOOK REVIEW正しさの凡庸を超えて──ダニエル・シェア『Distribution』Read BOOK REVIEW身体感覚、イメージ、距離━━ロイターと海原が捉えた湾岸風景Read BOOK REVIEW「私写真」を再考する──名を失う時代の“私”へRead BOOK REVIEWストロボが照らす廃墟の夢──レティシア・ル・フール『Le Crépuscule des Lieux』Read BOOK REVIEW歴史資料を超えた写真集へ──『Heap-O-Livin': Selections from the Lora Webb Nichols Archive 1899–1962』Read ARTICLE変容するイメージ、横断する領域──ヴォルフガング・ティルマンスと現代写真Read BOOK REVIEW誰のものでもない、「私」の15年──江崎愛 写真集『Archive of affection, obsession』Read BOOK REVIEW気象観測カメラが映し出す自画像─『I on the Road / Weather...
PRESEN TATION – VOL.3Between Branches by FOC, NN and IACK23 February, 2026Info Local (Art) Book Market10 January, 2026Info OpacitiesLine Bøhmer Løkken & Marte Aas6 - 28 December, 2025Info それから ─ アーティストブックと変容の詩学Yukihito Kono30 April - 31 May, 2025Info Feature: Roma Publications and Mark Mandersローマ・パブリケーションズとマーク・マンダース13 - 29 December,...
もうあと数時間もすると、2025年も終わります。 皆さんにとってはどのような一年でしたか? 店主は個人としてもIACKとしても、「外に出向く」ことを目標に動いていたため、IACK店頭での展示企画本数は例年より若干少なくなりました。しかしその分、より多くの方に直接本を届けられたのではないかと思います。 作品集に関しては、取り扱いの有無に関わらず、今年も多くの写真集を手に取りました。ブックフェアにも例年以上に出向いたので、累計で何冊に目を通し、手に取ったのかはまったく分かりません。 では今年も簡単にではありますが、IACKに入荷した本の中で特に印象に残った写真集を振り返りながらご紹介します。 DistributionDaniel SheaPublished by MACK ダニエル・シェアと MACK。2010年代の写真シーンを代表する写真家と出版社による本書は、時代の節目を感じさせる見事な一冊でした。 本作は、「森を撮るとはどういうことか」という問いを起点に制作された作品であり、断片的な写真、あるいは全体を写したとしても、物事の一部しか語り得ないという写真メディアの性質を受け入れた上で、現代アメリカの都市像に迫ります。 統計的に「最もアメリカ的」とされる女性のポートレートで幕を開け、断片的な都市のイメージ、静物、グリッド状のレイアウト、コラージュなど、写真集表現におけるあらゆる技法が駆使されています。写真の強度だけを見れば、もっと薄い造本でも成立するでしょう。しかし、執拗な反復やシークエンスによって、鑑賞に時間をかけること自体が重要になっており、そのためにこの仕様に落ち着いたのだと感じます。 現代における写真、イメージ、印刷物、生成画像、そしてリアリティーとは何か。最後に収録された小説も本作に一層の深みを与えています。年内にレビューを書く予定でしたが間に合わず……1月には改めて記事をまとめるつもりです。まだお持ちでない方には、今年、そして一時代の総括として、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。 通販ページはこちらhttps://www.iack.online/products/distribution-by-daniel-shea?_pos=50&_sid=69e3c36a3&_ss=r Vertical ShiftMarte AasPublished by Multipress 今月、店頭ではノルウェー人写真家リーナ・バーマ・ロッケンと、写真家/映像作家のマルタ・オースによる展覧会を開催しました。ふたりは作家活動と並行して Multipress というアーティストラン出版社を運営しており、本作も自らのレーベルから出版されています。実は Multipress は、IACK を立ち上げた8年前に最初にコンタクトした出版社でもあります。そのきっかけは、当時店主が参加していたアーティストブックのグループ展で、同じく展示されていたオースさんのアーティストブックでした。 振り返ってみると、これまでオースさんの作品は、映像作品のキャプチャであったり、映像とセットであったりと、写真が全面的に主役になることは少なかった印象があります。本作は明確に「写真作品」として制作されており、彼女の高い写真技術と個性が際立っています。アーカイブ写真を素材として扱うバティア・スーターの作品を想起させるように、場所性や時代性を示す要素を排除した写真は、アーカイブのようでありながら強い作家性を感じさせます。 写真の上下左右をあえてばらばらの向きで収録するレイアウトは、一枚の写真に対する固定的な読解を拒んでおり、視覚的な驚きとともに、写真を読む面白さの原点にも立ち返らされます。ブルーのゴムバンドで綴じた装丁も良い佇まいです。 通販ページはこちらhttps://www.iack.online/products/vertical-shift-by-marte-aas?_pos=34&_sid=69e3c36a3&_ss=r ODaniel Reuter and Umihara ChikaraPublished by Roma Publications / Arts Council Luxembourg 今年開催された大阪・関西万博。ルクセンブルク館では、プログラムの一環として、ルクセンブルク出身の写真家ダニエル・ロイターと、日本人写真家・海原力による展覧会が行われました。本書は、その展覧会に合わせて、オランダの Roma Publications から刊行された写真集です。 一枚一枚の写真に派手さはありませんが、それこそがふたりが見た均質的な湾岸地域の風景であり、その均質さを表現するために、撮影における取捨選択が徹底されています。何より本書を特徴づけているのが、同じ写真をモノクロとカラーで反復させるブックデザインでしょう。本という形式だからこそ成立する写真表現であり、さすが Roma Publications と言わずにはいられない手腕です。ランドスケープ写真集の可能性を切り拓く、見事な一冊だと思いました。...
IACK BEST SELLERS 2022|TOP 16 - 30
毎年この時期になるとその年のベストブックを選ぶのが恒例行事になっていましたが、今年は前編後編に分けてベストセラータイトルTOP30をご紹介することにしました。ラインナップからその年の傾向や時代性が垣間見えてなかなか興味深いです。年末の隙間時間にどうぞお楽しみください。 ... 30位|Fastidiosa by Jean-Marc Caimi + Valentina Piccinni (Overlapse, 2022) 一貫して高水準な読み物系写真集を制作しているロンドンの独立系出版社「Overlapse」より、写真家デュオ「Jean-Marc Caimi + Valentina Piccinni」による作品集。南イタリアのオリーブ園を中心に大きな被害をもたらしている樹病と農家たちを記録した作品で、この手の作品にしては珍しく作家性の強い写真から構成されています。マットな紙の質感も作品世界とマッチしていい感じです。https://www.iack.online/products/fastidiosa-by-jean-marc-caimi-valentina-piccinni?_pos=1&_sid=b1b4ac9fe&_ss=r ... 29位|Seiichi Furuya: Why Dresden - Photographs 1984/85 & 2015 (Spector Books, 2017) 日本人写真家、古屋誠一が家族とドレスデンに滞在していた際に撮影していた写真から構成された作品集。作家が自分は一切関与しないと言う条件を提示した上で制作された異色の作品集ですが、記録性、社会性、そして撮影者との切り離せない結びつきという、一枚の写真が持つ多面性を大いに感じさせる興味深い一冊になっています。 https://www.iack.online/products/why-dresden-photographs-1984-85-2015-by-seiichi-furuya?_pos=1&_sid=0697a42dc&_ss=r ... 28位|The Eyes That Fix You in a Formulated Phrase by Mariken Kramer (Multipress, 2018) オスロを拠点に活動するアーティスト、マリケン・クラメによる作品集。IACKのオープン当初から入荷している定番作です。300部限定なのでいつ絶版になってもおかしくないですが、仕入れることができる限りは入れていこうと思っています。お早めにどうぞ。https://www.iack.online/products/signed-the-eyes-that-fix-you-in-a-formulated-phrase-by-mariken-kramer?_pos=1&_sid=f164ecbfb&_ss=r ... 27位|Shame...
変容するイメージ、横断する領域──ヴォルフガング・ティルマンスと現代写真
現代写真に関心を持つ人なら、一度はヴォルフガング・ティルマンスの名前を耳にしたことがあるだろう。 「現代写真はティルマンスに始まり、ティルマンスに終わる」 そういっても過言ではないほど、ティルマンスは90年代から現在に至るまで、常にその時代の視覚文化を更新し続けてきた。一時代を象徴する写真家は他にもいるが、常に時代と呼応し続ける存在は彼をおいてほかにない。 IACKは現代写真を中心に扱うことを掲げているにもかかわらず、長らく彼の作品集の在庫を欠いていた。そのことにぼく自身、違和感を覚えていた。そこで今回は、新たに入荷したティルマンスの作品集3点を通して、その魅力の一端に触れていきたい。 ヴォルフガング・ティルマンスという作家 ティルマンスと聞いて、まず何を思い浮かべるだろうか。 ユースカルチャーやセクシュアルマイノリティを扱った写真、天体のように配置されるインスタレーション、壁に直貼りされたプリント、暗室で生み出された抽象写真、デジタル写真の可能性を早くから提示した作品群、社会問題に直接向き合う活動、映像や音楽──。思い浮かぶ作品を列挙するだけでも、彼がいかに多彩で多作な作家かが分かる。 1968年ドイツ・レムシャイト生まれ。現在、ベルリンとロンドンを拠点に活動。英国ボーンマス&プール・カレッジを1992年に卒業した後、パープル誌などのファッション雑誌に現代美術家として戦略的に写真作品を掲載。壁に直接写真プリントを貼る独自のインスタレーション展示や、同世代の若者やカルチャーそしてセクシャルマイノリティに目を向けた作品などで注目され、2000年には写真を主な表現手段とするアーティストとしては初めてとなるターナー賞を受賞。カメラを通じて現代社会の様々な側面を切り取りながら芸術の可能性を追求している。近年は音楽活動や社会問題へのアクションにも注力。自身がディレクションを手掛ける写真集や展覧会カタログも精度が高い。(作家プロフィール:WACO WORKS OF ART ウェブサイトより) そして作品集は、ティルマンスの活動と切り離せない重要な表現形態だ。活動初期から今日に至るまで、印刷物は彼の核をなすメディアであり、今回入荷した90年代から今日にかけて制作された3冊からも、その特徴を確かに感じ取ることができる。 カタログとアーティストブックの垣根を超えて 『Wolfgang Tillmans: Nothing Could Have Prepared Us – Everything Could Have Prepared Us』(Spector Books、2025) 本書は2025年9月現在、パリのポンピドゥー・センターで開催中の展覧会にあわせて刊行された作品集であり、彼のキャリアを総括するような内容となっている。 ポンピドゥー・センターは1977年開館の世界有数の現代美術館だ。5年にわたる大規模改修工事を前に、ティルマンスは館内で自由にプロジェクトを行う権限を与えられた。その事実だけでも彼の評価の高さが窺える。彼は公共情報図書館(BPI)の2階全体を再構成する大規模インスタレーションを実現し、建築として、また知識の場としての図書館のあり方を問い直した。 本書はそのプロジェクトを余すところなく収録する。作品図版と展示風景を交互に展開し、空間をいかに自らのものとしたかを示す。さらに若手研究者による多様な論考も加わり、ティルマンスの仕事に新たな光を投げかけている。 カタログといえばカタログなのだが、ティルマンスの場合、展示記録として図版や展示風景、論考を収録した典型的な出版物としてのカタログは決して制作しない。そのどれもが、カタログというよりアーティストブックと呼ぶ方が自然である。 前回も述べたが、現代写真集の特徴のひとつに「写真集には作家の意思が強く反映され、構成されるべきである」という考え方がある。ティルマンスが単なる作品コレクションとしてのカタログを制作しないのは、カタログにおいても写真集のように作品としての側面を持つべきだと考えるからである。(1) このような考え方をいち早く示したのが、ティルマンスのキャリアを、そして90年代を代表する写真集のひとつ『Concorde』である。 『Concorde』( Walther König、2025) 『Concorde』は、1997年にロンドンのチセンヘール・ギャラリーで開催された展覧会「I didn’t inhale」にあわせて出版された。現在は運行を停止した超音速旅客機コンコルドを街中からの視点で捉えた本書は、論考やテキストを含まず、シンプルだが練り上げられた順序で写真が配置されている。単にシリーズをまとめた本ではなく、これ自体が作品として構想されている意図が窺える。 このような思想は、それまで出版されてきた、単なる作品コレクションとしての作品集やカタログに対するカウンターとして生まれたとも言える。しかしティルマンスにとって、カタログと写真集の垣根は存在しない。自ら編集・監修を徹底し、展示と同様の哲学を反映させることで、記録を超えた作品へと昇華している。 実際、ティルマンスの代表的な写真集を挙げようとすると、その多くが展覧会にあわせて制作されていることに気づくだろう。現代美術家ならともかく、写真家でありながら、写真集ではなくカタログが代表的になる作家は他にほとんどいない。しかもその理由が「写真集がないから仕方なく」ではなく、作品としての質の高さゆえにである。 今回のポンピドゥー・センターでのカタログも、カタログとしての機能、展示風景、図版、論考を収録しながらも、一冊のアーティストブックとしての完成度を備えている。 展示空間としての作品集 『Wolfgang Tillmans: Things matter, Dinge zählen』(Walther...
パリの出版社「RVB Books」とホテルグループ「BELMOND(以下ベルモンド)」がコラボレーション企画「As Seen」の出版を開始してから、早くも2シーズンが経過した。 この写真集シリーズは、ベルモンドが世界各地に所有するホテルや寝台列車などにアーティストを派遣し、現地での滞在制作を通して生まれた作品をRVB Booksが編集・出版することで制作されている。初回を除き、シーズンごとに2冊ずつ刊行され、これまでに合計9タイトルが出版された。 RVB Books × BELMOND, “As Seen” series ©︎RVB BooksUnified format and linen covers give the series a distinctive presence 何といっても、統一された判型とポップなデザインがまず目を引く。布張りの質感も心地よく、本を開かずとも眺めているだけで楽しい気持ちにさせられる。 判型を揃えることは、外見に統一感をもたらすだけでなく、与えられた制約の中で作品のポテンシャルを引き出す役割も担っている。完全に手放しで自由な状況よりも、案外、制限がある方がクリエイティビティが発揮されることは珍しくない。それは例えば、ノルウェーのアーティスト・ラン出版社Multipressの「Angle」シリーズからも感じられる。 ページ数や紙質、印刷、レイアウト、そして作風もバラエティに富んでいるため、毎回新刊がどのようなテイストの作品に仕上がってくるのか、楽しみに待っているファンも多いのではないだろうか。 そして昨年11月、秋冬のタイトルとして例年通り2冊の新刊が刊行された。 Cecy Young, CASTELLO DI CASOLERVB Books, 2025 『CASTELLO DI CASOLE』は、メキシコ人写真家セシー・ヤングによる写真集である。 本書は、ベルモンドが開始した写真レジデンシーの初代招聘作家として、ヤングがトスカーナの田園地帯に位置するカステッロ・ディ・カゾレに2週間滞在して制作した作品を収録する。10世紀に建てられ、約1,300ヘクタール(3,200エーカー)の広大な土地に広がるこの城は、かつて映画監督ルキノ・ヴィスコンティが季節ごとに滞在していた場所でもあり、歴史、自然、静謐な美を時代を超えてたたえている。 Spread from the book "CASTELLO DI CASOLE" レジデンシー期間中、彼女は決まったプランを持たず、光、質感、そして一瞬の感覚だけを手がかりに敷地内を歩き回った。彼女の写真が捉えるのは物語ではなく「気配」であり、記憶や時間、日常の儚い美しさへの瞑想のようでもある。古い椅子に落ちる影、葉に宿る朝露など、現実と想像のあいだに漂う繊細な緊張を、やわらかく直観的な視線で掬い取っている。 ストレートに、感覚の赴くままに旅を記録した本作は、今一度、このシリーズの原点である旅の喜びを強く感じさせる。 Ángel...
2021年も残すところ僅かとなりました。今年も取り扱いタイトルの中から店主が特にピンときた作品集をセレクトいたしました。例年通り個人的視点から選出していますが、コメントもつけておりますので年末の空き時間にお楽しみいただけますと幸いです。-SOUKHOS by Raphaël Barontini「LVMHメティエダール」が主催する「LVMHメティエダール研修プログラム」の成果物のひとつとして毎年制作されているアートブックシリーズより、2020年度に選出されたフランス人アーティスト、ラファエル・バロンティーニによる作品集。衣服を着用可能な作品と捉えた上で、架空のパレードで祝福される英雄達を制作し、絵画史上における黒人の登場人物の描写に挑戦した本作ですが、フォーマットは同様ながらもその制作過程はこれまでに制作された他の参加作家たちの作品集とは大きく異なります。今回のプログラムは新型コロナウイルスのパンデミックの最中に実施されたため、作家と出版社はこれまで採用していた成果物と展示風景を収録したアーカイブとしての作品集作りのアプローチを変更することを強いられたのです。コロナ禍によって生じたトラブルや不都合をありのまま抱えながらも、作家の創造性を最大限に活かして事態を乗り越えており、その結果かつてなく作家性を強く感じさせる作品集に仕上がっています。https://www.iack.online/collections/books-2021/products/soukhos-by-rapha-l-barontiniThe City And All It Holds by Roni Ahnロンドンを拠点に活動する写真家、ロニ・アーンによる自費出版作品。新型コロナウイルスのパンデミックを受け、アーンは身近な存在や環境の重要性について考えるようになりました。本書はそのような考えのもと、アーンが故郷の香港を訪れ撮影した写真から構成されています。一見、若者やユースカルチャーをテーマにした作品に見えるのですが、あくまでも友人や恋人、あるいは彼らと撮影地との「関係性」が主題となっており、ページを捲るたびにそれぞれの登場人物たちのストーリーを想像させられます。若者を中心に取り上げているのは、その年代が人間関係が特に変化しやすい時期であり、移ろいやすく繊細なものだからこそ身近な繋がりが大切なのだという作家の考えが反映されているのではないかと思いました。https://www.iack.online/collections/books-2021/products/signed-the-city-and-all-it-holds-by-roni-ahnArchivist Addendum First Editionロンドンに拠点を置く出版プロジェクト、Archivist Addendumの初となる作品集。ファッション雑誌の世界において重要視されるフォーマットやシーズンといった常識に左右されずに、定型化されたファッションエディトリアルと難解なアカデミックな領域の間で新たな表現可能性を模索することを目的に制作された本作では、様々な資料が納められたユニークなボックス型のフォーマットを採っています。ファッションエディトリアルとアカデミズムだけでなく、ファッション雑誌とアーティストブックの中間という、新たな領域の可能性を感じさせる意欲的な作品だと思いました。https://www.iack.online/collections/books-2021/products/archivist-addendum-first-editionInstallation View: Photography Exhibitions In Australia (1848-2020) 写真の表現形態としての展示(インスタレーション)に着目することで、どのような写真史観が浮かび上がるのか。そのようなアイディアをもとに制作された、これまでありそうでなかった一冊。絵画時代から現代に至るまで、有名無名含めたさまざまな展覧会やインディペンデントギャラリーの活動が紹介されており、オーストラリアの大変豊かな写真の歴史に驚かされます。なかなか渋い内容なので売れ行きが良い本ではありませんが、図版も豊富に収録しているので写真に興味を持っている方や写真表現に携わる方は必携の一冊だと思います。https://www.iack.online/collections/books-2021/products/installation-view-photography-exhibitions-in-australia-1848-2020Japan Works by Aglaia Konrad今年の9月から11月にかけてIACKで店頭、オンラインと立て続けにイベントを開催したオーストリア人アーティスト、アグライア・コンラッドによる作品集。本作に関しては以前掲載した記事にたっぷりと書きましたので詳細は割愛しますが、作品内容はもちろんのこと、作家の文脈や制作プロセスを見事に本に反映させた出版社の手腕にも注目です。また、読者が暮らす文化圏や地域によっても大きく見方が変わる面白さもあると思います。まだご覧になられていない方はこの年末に是非どうぞ。https://www.iack.online/collections/books-2021/products/japan-works-by-aglaia-konradChoreography with Potatoes and Flour by Line Bøhmer Løkkenノルウェーのアーティスト・ラン・パブリッシャー、「Multipress」を主催する写真家、リーナ・バーマ・ロッケンの最新作。パン職人であるロッケンの父親が生地をこねる様子を撮影した写真を用いて、まるで生地のように写真をさまざまなサイズに引き伸ばしたり折り畳んだり開いたり…。ネガやデータをもとに自在に出力される写真というメディアの特性と生地の性質が軽やかに重ね合わされ、表現されています。さまざまなサイズの紙を組み合わせる手法自体は珍しくありませんが、本書は作品内容と形態が完璧にマッチしており、デザインが先行しすぎずに表現手法として自然に用いられているところが良いと思いました。実物を手に取れる店頭で特に好評をいただいた一冊でした。https://www.iack.online/collections/books-2021/products/signed-choreography-with-potatoes-and-flour-by-line-bohmer-lokkenSomersault by Raymond Meeksまるで仕掛け絵本のように視覚的にも触覚的にも楽しませる作品集が多く制作される現代において、作品集における伝統的かつ最小単位とも言える表現手法である「シークエンス」をストイックに追求する写真家、レイモンド・ミークスの最新作。今回も研ぎ澄まされたシークエンスはもちろん見事なのですが、落ち着いたマットな用紙とフレンチ・フォールド(袋とじのような製本)を採用することで、被写体へと向けられた作家の穏やかな視線が上手く表現されています。白黒中心の構成に突如として挟み込まれる草花のカラー写真もアクセントとして大変効果的に機能しており、シンプルな構成の作品集にもまだまだ可能性があることを思い知らされます。 https://www.iack.online/collections/books-2021/products/somersault-by-raymond-meeksNice by Mark Peckmezianベルリンを拠点に活動するカナダ人写真家、マーク・ペクメジアンのファースト・ブックは、過去5年間に旅先で撮影された500枚以上ものポートレート作品のなからセレクトされた117枚の作品を収録。近年多く見られるようなポートレート写真とは異なり、パクメジアンは人の表情がもつコミュニケーションの媒介としての機能に着目しています。その点においてはとてもオーソドックスなポートレート写真ですが、被写体のエスニシティの豊かさや漠然とした枠組みは自ずと同時代的な要素を感じさせます。また、画面一杯に顔を配置する撮影スタイルながらも僅かに映し出される背景にまで細かく気を配っており、その技巧的側面も見応えがあります。同様のスタイルで撮影を続けるのか、作家としての表現的飛躍を遂げるのか、今後の活動にも注目の作家のひとりです。https://www.iack.online/collections/books-2021/products/nice-by-mark-peckmezianPolder Viii, Tuindorp Oostzaan, Amsterdam 1920 - 2020 by Raimond...
¥2,200
ノルウェーの独立系出版社、Multipressが不定期に発行するジンシリーズ、「Angle」の第19号。本号はチュニジア出身の写真家、モナ・カリー(Mouna Karray)のパフォーマンス作品、『Nobody will talk about us』を収録。 360部限定。ナンバリング入り。 - Title: Angle 19Artist: Mouna KarrayMultipress, 2017Softcover, 148 x 200 mm24 pagesLimited edition of 360 copies