(Signed) Empty Nests by Atsuko Murano Abalos
日本人写真家、アバロス村野敦子による作品集。
パリから電車でおよそ二時間、フランス北東部のライン川沿いに広がるアルザス地方は、山川に囲まれた美しい景観やワインの産地として知られている。またアルザス地方は湿地帯が多いことから、赤いくちばしをもつコウノトリ「シュバシコウ」がフランスで最も多く生息し、その幸せを運ぶ鳥としての伝承からも地方のシンボルとして愛されている。2019年にパリを目的地として渡仏したアバロス夫妻は、空き時間を利用してアルザス地方を訪れた。しかし季節は晩秋、子育てを終えたコウノトリたちはすでにより快適な冬を過ごすために暖かいアフリカ大陸へと渡っており、ふたりがアルザスで見かけたのは空っぽの巣ばかりであった。本書は、作者が街のさまざまな場所で見つけた「空(から)」のコウノトリの巣の写真が収録されている。
「2年前の旅の主なる目的はパリにあったが、他の街にも行ける時間の余裕があり、私と夫はアルザスに行くことにした。アルザス地方では、コウノトリ伝承が有名である。『なぜ私たち夫婦のところには来てくれなかったのか』コウノトリを見つけたらそう文句でも言ってみようか、などと列車の中で話をしていた。コウノトリは春から秋にかけてヨーロッパで子育てをした後、秋冬は暖かいアフリカ大陸に渡る。そう知ったのは、晩秋のアルザスに着いた後だった。そうして私たちは、主のいない空の巣ばかりを見上げ続けることになった。空の巣は多くのことを語ってくれたり、投げかけたりしてくれ、私の心を揺さぶった。空(から)には不思議な力があるようだ。
サンスクリット語において、空の語源は『家に人がいない』というような時に使われ、それは「期待される何かを欠いた」状態という意味らしい。カメラもその中身は空ではないかとふと思い及んだ。カメラ・オブスキュラの原理からも分かるように、基本構造を考えると中は空洞であり、空の箱に等しい。空の箱が意思を持って対象に向かう時、暗い空間が開く。そして光とともにその表像を内に取り込んで写真が生まれる。期待して欠けながらも無ではない『空』をとらえ、肯定された世界は明るく、見晴らし良く見えて来た。」 - アバロス村野敦子
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Title: Empty Nests
Artist: Atsuko Murano Abalos
LibroArte, Inc., 2021
Hardcover, case binding
177 × 256 mm
52 pages
Text in Japanese
First edition, signed by the artist
¥4,400 -