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前回は、IACKが作品集をセレクトする上で重視しているポイントをご紹介しました。
1. ジャンルを問わず、まず第一に作品自体(内容)の強度が感じられるか
2. 作品集は展示同様に独立した表現形態であり、そのことを意識した作品作りが成されているか
3. 作品内容・表現手法・アウトプットのバランス
以上の3点は作品集を読む上でも有用な判断材料になり得ると思います。その他、作品自体が持つ文脈や歴史に照らし合わせて読むことも当然必要になるのですが、自分の好み以外の評価基準を設けて鑑賞するために、まずは参考にしてみてください。
今回からは、そのようにセレクトした作品集をどのように紹介していきたいと考えているかを少し。
【量とスピードをどのように捉えるか】
2010年代のアートブック/写真集ブームは、過去に例を見ない数の作品集と観客を生み出しました。しかしその反面、しっかりと鑑賞されることなく埋もれてしまった作品や、一時的ブームとして消費することしかできずに離れてしまった観客たちが多く生まれたことも事実です。
なぜそのような事態に陥ってしまったのか。その原因として真っ先に思いつくのは、「制作量が多すぎた」ということです。しかし、当然事態はそれほど単純ではありません。
確かに近年は、「質の悪い作品集が大量に作られすぎている」と言う小言が出てくるほどに多くの作品集が制作されていますが、その量が実現したのは出版に対するあらゆるハードルが下がったからであり、また作品集というメディアに対する認知度が今一度高まったからだということを忘れてはいけません。それ自体はどう考えても悪いことではありません。
ぼくはむしろ、原因は量や質よりもその速度にあったのではないかと思います。
もう少し掘り下げてみましょう。これまでの話を踏まえると意外かもしれませんが、10年代ではむしろ速度を落として制作数を減らし、より丁寧に作品としての作品集を制作する方針が主流でした。*注
では一体なぜ量が増えたように感じるのか。それは独立系出版社や自費出版の数が増加したためです。出版社単位での制作数は減った一方で、制作人口が増えたことにより市場に出る作品集の総数が増加、結果として常に新刊が出版されているように感じられたのではないかと思います。
話をクリアにするために整理してみましょう。
- 10年代以前
それ自体作品としての作品集という考え方や、その意識を持って作品集を制作する独立系出版社は当時から存在したが、まだ現在ほどの広がりは見せていなかった。あくまで大手出版社が先導する大量生産が主流。一年に大量のタイトルを出版。
- 10年代
これまでのコレクション要素の強い作品集から、より民主的かつ作品性の高い作品集(アートブック/フォトブック)へ。年間制作タイトル数を減らし、一冊一冊を作家と協働制作。全体としてスローダウンを志向する一方で、制作者が激増。アートブックフェアも浸透。
- 〜現在?
盛り上がりと比例して制作者の数が増え、常に市場に新刊が溢れる。そのスピードと単調なサイクルから次第に飽和状態へ。
時代に応じて問題となる量やスピードの対象は変化しています。以上のように、この先議論を進めるには、より広い視点で事態を捉える必要があることをご理解いただけたのではないかと思います。
ではこのような状況下において、制作者と観客を繋ぐIACKができることは何か。それは独自の時間軸の構築であり、「ちょうどいい」言説の提供なのではないかと考えています。
(つづく)
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*注1:10年代の写真集作りを牽引したロンドンの出版社「MACK」は、これまでの作品集の出版ペースが早すぎると感じ、年間制作タイトル数を減らした丁寧な作品作りへと向かった。大量生産のカタログから民主的な作品としての作品集へ。その姿勢は10年代のスタンダードとなり、多くの出版社に影響を与えた。https://imaonline.jp/articles/interview/20161209michael-mack_1/#page-1