合計10,000円以上のお買い物で配送料無料
検索

遊びのためのエクスキューズ──『PLASTIC PRODUCT ZINE』から考えるZineの現在地



PLASTIC PRODUCT, "PLASTIC PRODUCT ZINE : 02 FRIDGE", book cover

コロナ禍以降、Zineリバイバルは年々勢いを増している。毎年、今が盛り上がりの最高潮だとも感じるが、その勢いは止まるところを知らない。

Zineを作るのは個人だけではない。企業やブランドもZineを作る。それ自体は新しい動きではなく、近年始まったことでもない。しかし、現在のZineをめぐる状況は、かつてのDIYメディアや、2010年代にアートブックフェア周辺で見られたアート系Zineとは異なる性質を帯びているように思う。Zineは、もはや特定のジャンルや態度を示す言葉ではなく、これまで以上に射程の広いものになっている。

辞書、あるいは柔らかなレンガ


韓国のファッションレーベル/コレクティブ、PLASTICPRODUCTもまた、近年、『PLASTIC PRODUCT ZINE』と題した出版プロジェクトを行っている。

クリエイティブディレクターのミンチョル・ソは、過去に受けたインタビューで、このプロジェクトについて次のように述べている。

「毎号“プラスチックと似た感覚を持つ対象”をひとつ選び、テキストを一切使わず、約1000枚の写真のみで構成されたZINEを制作しています。」*

2022年には、銀色の車の写真を集めた『PLASTIC PRODUCT ZINE : 01 SILVER CAR』が、そして2025年には、冷蔵庫の写真を収めた『PLASTIC PRODUCT ZINE : 02 FRIDGE』が出版された。約1000枚の写真ということで、当然それらは物質的にも相当なボリュームとなる。まるで辞書のような、あるいは柔らかなレンガとでもいうようなオブジェである。

"PLASTIC PRODUCT ZINE : 01 SILVER CAR" and "PLASTIC PRODUCT ZINE : 02 FRIDGE"


ディレクターの説明にもある通り、解説の役割を持つテキストは収録されておらず、読者はわずかな手がかりからこの本を読むことになる。(ただし第1巻に関しては、プラスチックに関する短編小説を収録した別冊がセットになっている。)

しかし、読むといっても、この本は謎解きをするようなタイプの本ではない。主題と写真が、深読みができないほどシンプルに結びついているからだ。写真には車が、あるいは冷蔵庫が写っている。それ以上でもそれ以下でもない。

写真は特別に意匠を凝らしたものではなく、おそらくスマートフォンやコンパクトデジタルカメラなどを使い、被写体を中心に配置する構図で撮影されている。車の号では、時折ディテールを撮影した写真も含まれるが、基本的には無機質なアプローチで、淡々と、撮影地を示す座標とともに写真が収録されている。車種や背景は異なれど、社会における銀色の車の用途や、私たちが抱くイメージが、反復によって徐々に浮かび上がるような感覚がある。

Spread from "PLASTIC PRODUCT ZINE : 01 SILVER CAR"


一方で冷蔵庫の号には、撮影手法自体は変わらないが、もう少し情緒が感じられる。


車の号とは異なり、こちらでは座標を示す数字ではなく、おそらく撮影時間を示す数字が唯一の補助線として導入されている。さまざまな時間に結び付けられた冷蔵庫。その日の献立を考えるために開けた時のこと、夜食や冷たい飲み物を探して開けた時のこと、あるいは冷蔵庫の中身を見ながら、背中越しに誰かと会話を交わした時のこと──写真と時間という非常にシンプルな組み合わせだが、それらは冷蔵庫を開ける日常のさまざまな場面の記憶を呼び起こす。


Spread from "PLASTIC PRODUCT ZINE : 02 FRIDGE"


冷蔵庫は車と同じく道具だが、車が身体を拡張し、移動するための道具であるのに対し、冷蔵庫は食という、私たちの生命活動に直接関わるプロダクトである。他人に冷蔵庫を見られることは、時に自らの恥部を晒すような感覚も生む。だがぼくは、覗き見趣味的な関心以上に、冷蔵庫と時間がもたらすイメージに興味を抱いた。

視線のブランディングとアマチュアの美学


とはいえ、ここで一つの疑問が浮かぶ。ぼくはこれらの本を、このように真面目に読むべきなのだろうか。

それは作品の質に対する疑念ではない。むしろ、極めて単純な物事を過度に深読みし、誇張解釈する行為への懸念である。このようなことを考えてしまうのは、これが「Zine」という言葉を冠したプロジェクトだからかもしれない。誤解のないように言えば、Zineというメディア自体を軽んじているのではない。ただ、現在のZineには、深刻に読み込むよりも気軽に楽しむものというイメージが、どこかつきまとっているのだ。

本書は、社会学的な調査や批評的なテキストによって対象を分析する本ではない。さらに言えば、作品にすることによって対象にまったく新しい視点を与えているとも言い切れない。冷蔵庫や銀色の車は、ここで新たに読み解かれる対象というより、PLASTICPRODUCTというブランドの感覚を伝えるために選ばれた素材だからだ。反復、無言、膨大な量、そしてあえて狙いすぎない撮影の態度は、対象の意味を開くというより、「この対象を面白いものとして選び取る」センスを提示している。


その意味で、本書の中心にあるのは、対象への批評性ではなく、視線のブランディングである。

もちろん、それは単純に否定されるべきことではない。現在のブランドにとって、世界観とは商品やロゴ、ビジュアルイメージだけで作られるものではないからだ。何を見て、何を集め、何を面白がるのか。そしてそれをどのような美学を伴うイメージに落とし込むのか。そうした視線の共有によって、ブランドの輪郭は形成されていく。本書はまさに、その視線を可視化し、物質化するためのメディアなのだ。

Spread from "PLASTIC PRODUCT ZINE : 02 FRIDGE"


ここで注目すべきは、ある時期からInstagram上でも見られるようになった、ゼロ年代的なデジタル・スナップ写真の美学である。「アマチュア風スナップ」の形式化と再生産については、以前投稿した私写真に関する記事で詳しく論じているので、そちらも参照してほしい。

例えば、これらの写真が大判カメラや大型センサーを搭載したカメラで撮影されていたらどうだろう。あるいは、ベッヒャー夫妻のタイポロジカルな方法論を思わせる厳密さを伴って、完璧な構図と条件で撮影されていたら。それとも、フィルムコンパクトカメラでスナップ風に撮影されていたらどうだろうか。

それはおそらく、本作の意図とはかけ離れたものとなるだろう。本作は、対象を精密に、社会学的に記録しようとしているわけではない。かといって、写真表現としての強度を前面に押し出しているわけでもない。あくまで、数あるモチーフの中からこの被写体を選択し、あえて狙いすぎないように、画質自体は精細でありながらも、スマートフォン的な、アンチドラマチックな日常の記録写真風のスタイルで撮影している。彼らは素人集団ではない。社会学的なリサーチを目指すのであれば、本格的な機材で、細部まできっちりと写し出す方法を選ぶこともできたはずだ。だが、それをしない。

何を選ぶか。どこまで作り込まないか。どこまで説明しないか。どこまで無意味に見せるか。その調整によって、PLASTICPRODUCTは自分たちの感覚を、特定の世代や人々と視覚言語を通して共有している。

なぜZineなのか


ではなぜ、わざわざInstagramで完結するようなことを、予算と手間をかけて本に落とし込むのか。

若い世代は、常にさまざまな前提条件や環境が異なる社会に育つ。写真を撮ることも、共有することも、保存することも、発表することも、すでにデジタル環境の中で当たり前のものになっている。だからこそ、本を作ることの意味もまた、以前とは異なる。

それゆえ、昨今のZineブームを単なる再解釈やアップデートとして捉えるなら、その本質は見誤られる。物質回帰やノスタルジーという説明にも収まらないのである。特にコロナ禍以降に再燃しているZineの盛り上がりについては、その根底にある前提そのものが、かつてのZine文化とは大きく異なっているはずである。

今のZineは、もはや広がりのある情報共有の手段ではない。切実な訴えを届けるための最も効果的な手段でもなければ、最も斬新な美学的表現の手段でもない。それらの機能の多くは、とっくにインターネットが引き受けている。写真を見せるだけならInstagramでよい。言葉を届けるだけならSNSやnoteでよい。ブランドを説明するだけならウェブサイトやルックブックでよい。

それでもなおZineが増え続けているのだとすれば、そこに残っているのは、メディアとしての機能の外側にあるものではないだろうか。つまり、本書のような実験を行う場としての側面であり、遊びのためのエクスキューズとしての役割である。

Zineフェス金沢の会場風景、筆者撮影


現在のZineは、必ずしも明確なメッセージや批評性を前提としていない。作品集であり、日記であり、ブランドブックであり、リサーチの断片であり、同時にただの遊びでもあり得る。その曖昧さと懐の広さがあるからこそ、現在のブームのような、ある意味で混沌とした状況も受け入れられているのではないか。

PLASTIC PRODUCT ZINEは、まさにそのようなZineの現在地をよく示している。

本書は深読みもできる。しかし、まずはシンプルに画面をスクロールするような気軽さで流し見るべきだ。銀色の車が延々と並ぶこと。冷蔵庫が何百台も現れること。その反復の可笑しさと、そこから不意に起こる感覚の共有。

逆説的だが、デジタル上で画像を組み合わせ、その意味や位置づけを説明するよりも、物質として本を作ってしまうほうが、ひとつの遊びや実験としては手っ取り早く成立する。面白いと思ったものを、面白いまま本にすること。その単純かつ根源的な楽しさと実用性こそが、いまZineが人々を引き込む新たな魅力なのだろう。

Article by Yukihito Kono (29 July, 2026)

* ミンチョル・ソの発言は、HYPEBEAST Japanによるインタビューより引用。
https://hypebeast.com/jp/2026/5/plasticproduct-korea-fasion-brand-interviews


 

Title: PLASTIC PRODUCT ZINE : 02 FRIDGE
Artist: PLASTIC PRODUCT
Publisher: PLASTIC PRODUCT, 2025
Format: Softcover
Size: 120 × 180 mm
Pages: 928
Language: n/a
Edition: First edition
ISBN: 979-11-974456-4-4

▶︎通販はこちら
https://www.iack.online/products/plastic-product-zine-02-fridge