2018/12/13 14:11


2018年も残すところ僅かとなりました。


音楽業界でその年のベスト音源が発表されるように、写真集界隈でもこの時期になると各所で今年のベストブックがひっそりと発表されています。


IACKでは今年取り扱いのあった写真集の中から特に印象に残ったタイトルをいくつかセレクトいたしました。この記事ではその内10冊をご紹介しながら振り返りたいと思います。一年間に出版される膨大な作品集の中のほんの一部ですが、是非参考にご覧ください。



BEHIND THE GLASS by Alexandra Catiere (Chose Commune)

今年は例年よりもロシアや東欧がキーワードとなる作品集への注目度が何かと高かった印象があります。本書はベラルーシ共和国(当時ソビエト連邦)出身の写真家、アレクサンドラ・カティエールの作品集。過去の作品と改めて対峙し、そこに作家が現在制作するシリーズを組み合わせることで新たな作品として昇華させた一冊なのですが、造本がユニークで面白いです。一部に観音開きを採用した写真集は多々あれど、こちらはなんと全ページ縦開きが出来る仕様。そのためページ数に対して予想外の辞書並みの本の厚さ。ページをめくる(開く)という行為が強調されることで、写真集を読むということはイメージと遭遇することなのだと再認識させられます。販売価格を見て少し高いと思われるかもしれませんが、実際のボリュームと内容は納得の仕上がりです。

https://www.iack.online/items/13673845



CHRISTOPHER STREET, 1976 by Sunil Gupta (STANLEY/BARKER)

こちらは先日入荷したばかりの写真集ですがリストに入りました。版元のSTANLEY/BARKERは著名作家の過去作やクラシカルな作風の作品を中心に出版を行なっています。しかし、それらを端正で現代的なデザインに落とし込むことで古さを感じさせず、作家の新たな側面に光をあてる事に長けた出版社という印象です。本書はカナダ人アーティスト、作家、活動家であるスニル・グプタが、70年代初期に生まれたばかりのゲイ解放運動にインスパイアされ、当時継続して撮影していた写真を収録。服飾という観点から見ても非常に面白く、さらに社会や文化についても掘り下げていけるような奥行きを持った素晴らしい作品集です。

https://www.iack.online/items/15592233



EGGS AND RARITIES by Paul Kooiker (Art Paper Editions)

オランダ人アーティスト、ポールコイカーの作品集。本作はコイカーの展示に併せて出版された作品集であり、出版社のAPEことArt Paper Editionsとは以前も回顧展に併せた写真集を出版しています。今回は写真家のヨアヒム・ナウツをキュレーターに迎え入れることで、これまでとは異なるコイカーの一面が浮かび上がっています。具体的には、几帳面にインデックス化されていた前作や過去の作品よりも被写体の幅やシチュエーションが広がり、さらに複雑で入り組んだ構造となっています。その乱雑さが世界のありのままのカオティックな様相を反映しているようで、コイカーの精密な写真とユーモアも相待って強烈な一冊に仕上がりました。過剰に大きすぎず、手にギリギリ収まるサイズ感や間口の銀塗りなど、細かな点まで作り込まれている一冊です。

https://www.iack.online/items/15229260



METROPOLE by Lewis Bush (Overlapse)

ロンドンを拠点に活動する写真家、ルイス・ブッシュの写真集。一見、グラフィカルな手法で現代のロンドンを捉えたおしゃれな写真集なのですが、その内容はかなり社会的で重厚な作品。作家は近年一部の資本家たちの欲望と計画により変貌する街の姿を捉え、そしてその流れに翻弄され暮らしを脅かされているロンドン市民の一人として、写真を通して鑑賞者に現実を突きつけます。クールな外見とは裏腹に地道で泥臭いリサーチに基づいており、イギリス人らしいアイロニー(皮肉)もたっぷりの一冊です。装丁もさすがの仕上がりで、現場作業員たちが着用する作業用ベストのカラーに合わせたオレンジのスティッチが、黒を基調とした本書のページに突然浮かび上がる仕様には感嘆しました。

https://www.iack.online/items/14186614


One Eyed Ulysses by JM Ramirez Suassi (Self Published)

先日より取り扱いが始まったラミレス=スワスィの自費出版写真集。表紙をくり抜く大胆さとクラシックな写真という、相反する要素を併せ持った作家のデビュー作。出版されたのは今年の春ですが、ブックフェアなどを通して口コミで広まり、あれよあれよという間に話題の一冊に。ジワジワと売れ続け先日ついに作家分はソールドアウトになりました。印刷も綺麗で、自費出版だから物の質が低いかと思ったら大間違い。このクオリティーのものを175部のみ作るという、自費出版ならではの不思議な選択は個人的にかなりツボです。今年最後のディストリビューションタイトルとなりました。定価で買えるうちにどうぞ。

https://www.iack.online/items/14807209



SHIPWRECKED by Ekaterina Vasilyeva (Self Published)

ロシア人写真家、エカテリーナ・ヴァシリエワの自費出版写真集。本書はイギリスで見つけた40-50年代頃に撮影された写真に、作家自身がイギリス滞在中に撮影した写真を組み合わせた一冊。異なる時代に生きる二人の眼を通して景色を見つめ直すことで、歴史という大きな流れの陰に隠れた記憶や風景が呼び覚まされます。ヴァシリヤーヴァは大学の図書館司書として3年、そしてその後観光産業で8年間務めたのちに写真の勉強を始めたという、かなりユニークな経歴を持つ写真家。そんな写真家ならではの既存のルールにとらわれない作品からは、作家の手の温もりや本への愛情を強く感じさせる手製本の魅力を改めて感じさせられました。

*輸送時に少し角の潰れた個体が一冊ございます。ご興味のある方はお問い合わせください。

https://www.iack.online/items/13749295



THE EARTH IS ONLY A LITTLE DUST UNDER OUR FEET by Bego Antón (Overlapse)

スペイン人写真家、ビーゴ・アントンの作品集。児童文学書のような装丁、インパクトのある写真、そして作者はエルフスクールを修了したというフレーズに興味をそそられ、読み始めて一気に引き込まれた一冊。本書は読む写真集であり、そして写真だけでなくテキストの表現まで独自な、見て体験する写真集です。出版社とアーティストがベストな形でコラボレーションした時に素晴らしい作品が生まれるという好例。マリケン・クラマーの写真集と並んで2018年の大推薦の写真集です。

https://www.iack.online/items/11477146



The Eyes That Fix You in a Formulated Phrase by Mariken Kramer (Multipress)

ノルウェー人アーティスト、マリケン・クラマーの作品集。文化人類学者だった亡き父が撮影した写真と、自らが撮影した子供の頃の玩具の写真。それらをテキストと組み合わせることで誕生したポリフォニックな作品です。写真のアーカイブとしての性質、コード無き性質、そして常に現在に根ざしながら未来に向けて思考するメディアであるという本質。写真の様々な特徴を活かしながらもどこまでも個人的な作品集で、カメラを向け幼き頃の作家に声をかける父と子の関係性に思いを馳せながら何度も読み返しました。個人的に今年一番印象的だった写真集。今年のParis Photo / Aperture First Book Awardにもノミネートされました。

https://www.iack.online/items/11463806



The New Colonists by Monica Alcazar-Duarte (Bemojake)

ロンドンの独立系出版社、Bemojakeより出版されたモニカ・アルカサル=ドゥアルテの作品集。本書は火星をテーマに制作されたドキュメンタリー作品であり、アメリカ合衆国ペンシルヴェニア郊外に位置する風変わりな町「Mars」のドキュメンタリー、ESA(欧州宇宙機関)や「Mars Yards」といった研究施設の現場風景、そしてロンドン大学バークベック・カレッジのイアン・クローフォード博士によるナレーションという三つの要素が見事一冊の本の中で響きあっています。写真集の分野ではまだ未開拓のAR技術を取り入れることで、平面上の表現という制約にも挑戦しており、スマートフォン画面をかざしたときの驚きは強く記憶に残るものとなるでしょう。

https://www.iack.online/items/10506953



TTP by Hayahisa Tomiyasu (MACK)

日本人写真家、富安隼久の作品集『TTP』。MACKのファーストブックアワードにノミネートされた時点で既に一部で話題となっていた本作は、予想通り作家の華々しいデビュー作となりました。定点の手法を用いる作家ならではのミニマルな視点、そしてその中にもユーモアをたっぷりと感じさせる作風で、多くの人の驚きと賞賛を得ました。デザインもMACKの新しい方向性を感じるものになっています。

https://www.iack.online/items/12064423


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一口に写真集といっても様々な表現法があり、その多様性こそが写真集の面白さだと思います。


店頭では当記事で取り上げた写真集を全てお手にとってご覧いただけます。年内は29日まで営業いたしておりますので、是非お手にとってご覧になってみてください。


*全リストはこちらからご覧いただけます。